JICA海外協力隊活動をどう修士論文にしたか

こんにちは。

2019年も残すところあと3日となりました。
今年は協力隊活動と大学院での修士論文執筆の一年となり、最近までバタバタしていました。
今日の記事では私が何を修士論文として書いたのか、その内容を参考程度に共有させて頂こうと思います。

協力隊活動を学位論文にするためのヒントになれば幸いです。

修士論文の学問領域(地域研究)

まず私の研究分野について簡単にご紹介します。

私が所属している研究科は地域研究研究科というところです。
英語では、Area Studies (エリア・スタディーズ)となります

特に理系の分野の方にはあまり馴染みがない分野だと思います。
私も具体的に大学院を考えるようになってから初めて耳にし、入学してようやく地域研究がわかってきました。

地域研究とは何かと言うと、フィールドワークを重視しながら研究対象地域(特にアフリカや東南アジア、中東などの途上国)を「地域」として有機的に理解しようとする、その営みのことだと言っていいと思います。

もう少し厳密に考えてみるために、「地域研究とは」と調べてみると、以下のようなことがネット上に載っていました。
京都大学地域研究統合情報センターより)

第一に、地域研究とは、現実世界が抱える諸課題に対する学術研究を通じたアプローチである。その最大の特徴は、現実世界を対象とするためにさまざまな制約があることを認めた上で、その制約を乗り越える工夫をしながら研究を行う点にある。

第二に、地域研究とは、既存の学問的ディシプリンが現在の研究環境に十分に対応できていない側面があるとの立場に立ち、既存の学問的ディシプリンを内から改良・改造しようとする試みである。

第三に、地域研究とは、「地域」として切り取られた研究対象に対する総合的な研究を通じてその地域の固有性を理解した上で、それをその地域の特殊性として語るのではなく、他地域との相関性において理解できるような語り方をする試みである。

ここで言われるように、地域研究は多様なディシプリン(学問分野)の視点が求められます。
地域といっても、そこには自然環境があればそれに適応するように変化してきた人の生業もある。
過去から現在までの歴史もあるし、今まさに動いている社会現象もある。

「地域」とは何かという問いが究極的な問いでもあります。
私たちの地域ってどこ?なに?と聞かれた時、答えるのは難しいです。

地域研究者の多くは一つまたは複数の専門性を持っていることが一般的です。
例えば、農学、水文学、(文化)人類学、生態学、保健学、政治学、経済学、などなど。
それぞれが、ある程度絞られた専門分野からその「地域」に学問的に切り込み、体系的に地域像を浮かび上がらせるのが地域研究の試みです。
元々は冷戦後にアメリカで興隆を見せ、先進国が第三世界に入るときの「途上国専門家」のような人が求められた時に始まったそうです。

私の研究の手法(アクションリサーチ)

私はフィリピンの活動地を、フィリピン政府の採っている有機農業の普及という農村開発政策の実践者の立場からみることにしました。

わかりやすくまとめてしまうと、「(有機農業普及という)農村開発の視点から地域研究を実践的にした」ということです。

東南アジアなどの新興国では都市部から離れた農村部であっても、政府やNGOの主導のもと、多くの開発プロジェクトが遂行されてきました。中には非難の対象となるものもあれば、成果を残してきたものもあるでしょう。
開発行為は、良くも悪くも農村に多大な影響をもたらしてきました。
現在もそうです。

東南アジアの「地域」は、もはや外部者による開発を無視しては捉えられないようにまでなっています。

私の採った研究は、実践的なものです。
質問票調査や聞き取りをしてデータを集め、それを定量的にまとめて、仮説に基づいて何か事象を説明するという研究とは手法も志向も根本的に違います。

私は協力隊活動をそのものを、アクションリサーチとして、問題解決型の研究としました。

「アクションリサーチ」を社会学辞典で引くと、以下のように説明があります。

社会的事態ないしは集団をある目的に向かって秩序づけたり変革を試みたりするために、研究、実践、訓練の過程を相互補足的、相互循環的に体系づけた研究法であり、実験を中心とする理論的な基礎研究とともに、現実社会に対する学問の適用性と実践性を重視するグループ・ダイナミックスの方法論のひとつである(社会学辞典)

アクション・リサーチ手法は医療、教育、農村開発などの様々な分野に取り入れられており、日々進化しています。
実践と理論を結びつけた手法です。

この手法に立てば、任地の配属先や受益者と協働しながら進める協力隊活動は、アクションリサーチそのものになり得ます。
まとめ方を心得ていて、二年間の活動の流れが説明できれば、それはもう一つの実践的な研究です。

参考までに私が採ったアクションリサーチの流れを図にしたのを掲示します。
このように、従来の研究は「理論→結果」と、直線的なのに対し、アクションリサーチは「計画→実施→評価→…」と、問題の解決を目指しながら、再帰的・循環的になります。

修士論文の内容(要約編)

私の修士論文の目次を載せます。
(実はまだ指導教官らからの最終チェックが入っていないので内容は変わる可能性は十分にあります、、、)

 

少しだけ説明すると、

第1章では、参加型開発の出現とこれまでについて整理しながら、本研究と絡める形で私としての参加型開発における問題の所在を明確にしました。続いて、農村開発の手段として有機農業の普及が考えられることについて述べました。

第2章では、研究実践地域の概要の説明(ここは研究者よりも隊員の方が鮮明に生き生きと書けると思います)をし、研究手法と研究の目的について整理しました。
私の研究の目的は、フィリピン政府の採っている有機農業政策の現場レベルでの妥当性と問題点を明らかにしながら、その問題の解決を目指すことでした(このように、アクションリサーチでは課題の解決がそのまま研究の目的になります)。

第3章では、フィリピン政府が全国で取り組んでいる有機農業普及政策の実施のされ方について、任地で関わった5つの例から批判的にまとめました。そして、有機農業政策の目的と実施方法が噛み合っていないことが障害になっていることを述べました。

第4章では、実際にデモファームで取り組んだ1年半の有機野菜の試験栽培の結果とその収益性についてまとめました。この結果から、フィリピンの特定の条件を有した農村では、確かに野菜を有機栽培でき高価で売れ小規模農民の所得の向上に結びつく(開発手段になり得る)ことが示唆されました。

第5章では、3章で批判した政府主導型の有機農業普及のあり方とは違った方法で実際に私とカウンターパートが取り組んだ普及実践について書きました。ただし、このPLAを通した普及活動は私の任期の終わりがあったために尻切れとんぼになってしまっています。PRAツールを活用しながら取り組んだPLAの中で、政府機関が取り組んできた普及ではみられなかった農民の反応や普及員の成長などがみられたので、そのことについて事実に基づいて記述しました。

第6章では、全体のアクションリサーチの評価と、フィリピンの有機農業政策の妥当性と課題について考察をしました。
同時に本研究の限界(たくさんあった)についても記述しました。

 

いかがでしょうか?
隊員なら誰でも書けそうに見えてきませんか?

内容的には非常に稚拙で、まだまだ詰めれらていない部分もありますが、このようにすれば修士論文として協力隊活動をまとめられる可能性があります。
私の研究のポイントは、

①任地情報をしっかり体系的に整理すること(地域研究として重要、隊員はできる)
②政策の実施のされ方(現場レベル)を整理すること(隊員だからこそわかる)
③②の問題点を取り除くような形で実際に採ったアクションとその結果を整理すること(カウンターパートがいるからこそできる)
④デモファームで実際に野菜を栽培してみて、それができることを確かめたこと(隊員だからこそできる)
⑤全体を課題解決志向のアクションリサーチとすること

でした。

ちなみに、修論の中で引用した文献は以下のような感じです。
内容がバレてしまいますね。
執筆に取り組んだのは2ヶ月程度でしたので英語論文はあまり当たれませんでした。

 

協力隊活動を修士論文にしてみての感想

正直なところ修士論文として提出したものの、これで良かったのかどうかわかりません。

アクションリサーチという手法も最後まで理解していませんでした(笑)
学部時代は実験と分析のゼミに所属していたので、「研究=数値データを取ることの積み重ね」が頭から抜けきれていませんでした。
指導教官に何度「君は頭がかたい」と言われたか。。
この点はまだまだ鍛錬が必要です。

アクションリサーチを語り、農村社会に何らかの形で影響を与えるからには結果にこだわらなければなりません。失敗は大きな負の影響をもたらしかねません。
私の場合、どれだけ有機野菜栽培に取り組んだ農民の生計が向上したのかしていないのかを明らかにし、そこからアクション全体の評価をするとことまでできて初めて研究として完結するのですが、時間・資金・能力的に制約から完遂できませんでした。

協力隊活動では事業実施地域へのインプットは隊員という人間1人だけです。任地で何か事業をしようにもお金はありません。人海戦術も採れません。
必死にデモファームで栽培した野菜を売ってワークショップのための資金を捻出しました。

そもそも、協力隊事業は国のODAの一環とはいえ、隊員にとっては元からプロジェクトの体をなしていない環境に放り込まれるだけです。そこで「研究」なんていう崇高なものを語っていいのか。そもそも活動自体七転八倒でまず上手くいきません。

この点の私の見解を述べると、研究とはそもそも社会をよくするためのものだと思っています。
それは開発学も地域研究も農学もそうです。

研究者が開発事業の実施地域に長期間滞在せずに作成した研究レポートや論文がどの程度その次の開発援助に繋がるのでしょう。実践の中で初めてわかってくることも多いのです。
現場感がわかる人、現場目線で考えられる人による「下から」の研究が求められています。

私は、美辞麗句に塗り固められた研究報告書を作るよりも、現場の生活感のあるリアリティを伝えることに意義があるように思っています。これはその地域に住んでいる非常に限られた人にしかできません。
協力隊はその意味で非常に整った環境に置かれていると思います。

一つの現場の事象にコミットすると、一般化して他の事象に当てはめて考えられないという批判もあります。
アクションリサーチの手法も、そこが弱みとされてきました。
果たしてそうなのでしょうか?
逆に、「地域」が異なるところで何を一般化できるのでしょうか。
これからも考えていきます。

以上になります。

みなさま良いお年をお迎え下さい。
来年はもう少し更新を頑張ります。

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