【研究活動】学振を書いてみて(自省とまなび)

 

こんにちは。

先週まで、ある申請書の作成に身も心も囚われていました。
それは、研究者界隈では研究者の登竜門と囁かれる、「日本学術振興会特別研究員」に採択されるための申請書でした。
一般的には「学振(ガクシン)」と読ばれ、日本では研究者を目指す人の多くが通る道です。

このガクシンとは、「これまでの研究成果と今後の研究計画を基に自分の研究をアピールし、国に研究費支援を要請するための文書」で、 A4用紙で7枚分です。
念のため簡単に説明すると、以下のようなものです。

・日本の研究者を育成するための制度
・各分野で細かく審査区分が設定されている(例えば、分野に応じて同じ「人文学」でも、人文学1-4まである)
・修士2年次(DC1)、博士1-2年次(DC2)、博士号取得済(PD)の3種類
・DC1、PDだと3年間、DC2だと1または2年間、国から毎月20万円(課税対象)支給される
・それとは別に毎年研究費を申請できる
・他の仕事(副業やアルバイトなど)や奨学金への規制や報告書の提出といったルールが多い
・多くの研究者志望者が挑戦するため例年の採用率は15-20%と大変厳しい
・「日本学術振興会特別研究員」の肩書がけっこう強い
・最終的な採用の合否は「運次第」とも言われている

 

今回は、ガクシンに向き合って学んだことを内省的に書きたいと思います。
この記事の主な目的は、記録と自己の反省です。
もし読者の方に来年以降で申請を検討している方がいたら、何かしらのメッセージになるかなとも僅かながら思いますが、そもそも採否がわかっていない時点でそこまで意識していません。

ガクシンに限らず、申請書の書き方といったテクニカルな情報はネット上に溢れています。
(例えば、大上先生のスライドは必読です)

ガクシン作成に向けての反省

ガクシンから学んだ反省点は、大きく二つに分けられます。
一つは、申請書作成に向き合っての短期的なものです。
もう一つは、「もっと読書してくればよかった」、「『文章』や『ことば』というものに真剣に向き合ってくるべきだった」、「国語をしっかり学んでおくべきだった」と言ったような、これまでの人生を踏まえた長期的なものです。

今回は、ガクシンだけに対する、短期的な点をまとめます。

以下に項目ごとに書いていきます。

開始時期が遅かった

初稿を書き始めるタイミングが遅すぎました。
一般的には、5月下旬の提出にたいして2-3月には書き始めるくらいの気持ちでいろと言われています。

私は、紙面上に記載するよう要請される研究業績を少しでも積もうと、論文執筆や学会発表に取り組み、それ以降は文献の読み漁りに時間を割いていたため、書き始めは4月末になりました。

結局のところ投稿論文は間に合わなかったので、これからまた向き合います。

(4/26に申請書作成開始した私のツイート)

大学の支援課の人が言うには、書き始めが早い人ほど採用される確率が高いそうです。

その意味は、書き始めてからわかりました。

慣れていなかったこともあり、申請書作成という作業が思う様に進まなかったからです。

結論から言うと、
ガクシンを攻略するためには、とにかくなるべく早く(できたら3月中)初稿を書き、周りの人に見てもらって、一通りの研究の流れの形をつくることです。
それができないと、終わりのない推敲に進めません。

推敲は、誰が読んでも理解できる文章を目指したら良いと言います。
「母親が面白いと思える文章でなければ落ちる」と採択者に言われました。

新型コロナウイルスの影響を受けて提出期限が延びましたが、それでも大変でした。。。

研究の方向性を決めるのに時間がかかった

申請書は、「これまでの研究」と、「これからの研究」についての二部構成です。
それとは別に「自己アピール」や研究に必要な手続きの進捗状況などを記載する欄もありますが、最も時間を要すのは研究内容について書くことでしょう。

「これまでの研究」の結果は変わりようの無いものです。
一方、「これからの研究」は、申請書作成時点でまだ決まっていない人も多いと思います。

重要なのは、これからの研究(向こう2-3年分)が決まっていないと、どういった学術的文脈に「これまでの研究」を乗せるか(研究の流れ、ストーリーと言われるやつ)、もまだ定まっていないという事になります。

つまり、「これまでの研究」の結果はあっても、「書き方」は決まらない、、その結果筆が進まないことになります。

ところで、私は書き始めても、申請区分が決まっていませんでした。
「農学・環境学」、「人文学」、「社会科学」の間で揺れていました。
大きな違いです。
とは言っても、このような事態は理系の実験系の学生にはなかなか無いかもしれません。

最初に書き出した当初、これまでの研究から思いついたように書いた申請書は、人文学区分でした(プランA)。
しかし、昨年採択された同期にそれを見せたところ、いろいろと指摘をされ、大きく書き直しました。

その結果、農学・環境学分野に寄せたものになりました(プランB)。
ところが、それを指導教員陣に見せたところ、「君らしさがない」「あまり面白くない」「地域研究区分で勝負しろ」といったようなコメントを四方から浴び、また書き直しました。

その結果生まれたものが、社会科学区分のプランCでした。

書き直しには、それぞれのプランで一週間はかかったので、プランCの初稿完成まで約1ヶ月かかりました。いや、長かった。。

研究の方向性や内容を定めるためには、関連するなるべく多くの文献に当たることが重要です。
これがまず第一ステップになります。
それをすることで自分の中でアイデアが生まれたり、活路が開かれたりするからです。
私の場合、この作業に時間がかかりました。
それは、上で書いたような研究の方向性のブレがあったためです。

付け加えると、コロナの影響でフィールドに行けない場合も想定する必要があり、悩ませました。
周囲の申請者には、フィールドに行けなくても3年で完遂できる研究内容に全体的に書き換えている人もいました

また、多くの学生が抱える問題点として、自分の研究に関連する重要な先行研究や文献に対するアクセスがない、ということもあるかと思います(ネット上で公開されていない雑誌論文とか)。
私もそうでしたが、その際は、教員や先輩、研究員の方に相談し、文献を教えてもらったり提供してもらったりすることも必要になります。そのためにも、なるべく早い段階に教員に見てもらうことが得策でしょう。

参考:頭の中を整理するためには、ブレインストーミングが有効でした。Microsoftが提供しているwhiteboardは大変使いやすくおすすめです。KJ法がPCの中ででき、機能性も高い印象を受けました。

スケジュール管理不徹底

参考までに、大学が提示していた理想的なスケジュールを引用してみます。

2月
募集要項/申請書作成要領/申請書様式を確認する
これまでの研究/研究計画を考え始める
2-3月 
指導教員/受入教員に申請の意思を伝える
評価書を依頼しておく
電子申請システムのID発行を依頼する
初稿を書く
3-5月
推敲する
指導教員や先輩などに読んでもらう
4月頃
電子申請システムでWeb直接入力部分を作成する
システム上で指導研究者に評価書の依頼をする
5月中旬
申請内容ファイルをアップロード、提出する
大学事務からチェックを受ける
5月下旬
事務からの返却をうけ、最終提出する

しかし、上の通りにはいかないのが現実です。

特に、書き始めるまでにした、論文の読み込みに時間を割きすぎました
論文や文献を読み、自分の研究がどこに割り込めるかを考えると思いますが、これはある程度方向が見えてきてからでもいいと思います。
私は、とにかくもっと早く「とにかく書いてみる」を実践するべきでした

周辺を見ていても、残念ながらDC1に落選し、DC2を受ける人は、経験から早めに取り組み始める傾向にあります。
初めてガクシンに挑む人の多くは、私のようにその見通し予測を誤りがちです。

とは言いますが、私の周囲には、大学が定めた学内締め切りに間に合わないくらいギリギリでも採用された人がいます。
その人は教員にも見てもらっていなかったようです。
ですが、このようなことは、余程「読ませる文章」の作成に長けた人でしかできないことだと思います。
その人も2-30人分の過去の申請書を参考にしたと言っていました。

独力依存は良くない

提出の約1ヶ月前まで、ひたすら文献を漁っていました。
その時、手元には過去に採用された何人かの申請書がありましたので、「こんな感じか」と大体の規模感を掴みながら、情報取集をしていたのですが、何度も言う様に、ここに時間を割きすぎていたのが反省点です。

文献を読みながら方向性を決めても、周囲の人や教員と相談する中で変更点は多く生まれます。
私は、もっと早く指導教官や他の教員に見せるべきだったと思いました。

まずは、なるべく早く、やりたい研究を思いのまま素直に書き、誰かに見てもらうことが大事だと思います。
その思いを紙面にぶつけることで、自分のこれまでの研究や人柄が乗ったオリジナリティが反映されます。
それが書けたら、一度教員に見てもらい、コメントをもらうといいです。
大学院生が考えつくことなんて教員から見ればありきたりなことかもしれません。
そこを指摘してもらい、「もっと面白くするためのアドバイス」をもらうといいと思います。
そこで、漠然とした方向性だけでも決めておいた方がいいです。

方向性が定まったら、そこから少しずつ、参考文献に当たって学術的コンテキストに乗せて行く。

 

反省点のまとめ

ガクシンへの反省点を整理すると以下のようになります。

  • 文献の読み漁りに時間を割きすぎた(結果的に不必要な論文も多かった)
  • 書き出しが遅かった(提出の2ヶ月前には初稿を書き終えるのが理想)
  • まずは「思いつき」を書いて教員に見せるべきだった
  • 方向性が決まってから必要な論文を読むべきだった

 

申請書や報告書の作成は、研究者には避けて通れない仕事です。
わかりやすい書類の作成スキル、論理的な思考力、説得力のある文章力は、研究者が磨き続けるスキルに間違いありません。
これらの能力は、小手先の技術でカバーできる部分もあったとしても、長期的な習慣や努力、心掛けによってセンスを日々磨くことが重要な気がしました。
それを体感できただけでも御の字としたいところです。

運よく当たっていたら、申請書作成に気をつけたことでも書きたいと思いますが、更新されなかった場合は悟ってください。
今回の学びを活かして、次の研究費申請頑張ります!

 

 

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