今回は、最近たまに聞く様になった、「エコ不安症」についてだ。
BBC(2019.10.21)の記事で扱われている二人のエコ不安症と闘う方を例にして、この問題を読者の方々と一緒に考えたいと思う。
エコ不安症(Eco anxiety)とは
「エコ不安症」とは、気候危機のことを考えると極度に気持ちが落ち込み無力感や恐怖感を感じる慢性的な症状のことを言うようだ。
各分野の専門家が集まって、エコ不安症にかかった人々を助ける活動をしているNPO法人気候心理学同盟(Climate Psychology Alliance)によると、エコ不安症には、怒り、恐怖、絶望感、極度な落ち込みなど、多くの症状がある。
また、同団体の幹部である Caroline Hickman は、「エコ不安症は精神病ではない」とし、むしろ「それは世界の惨状とのつながりを自覚している意味でむしろ健全なことだ」とまで言っている。
32歳で一児の母であるHeather Sarnoさんは、将来の地球環境のことを考えると恐怖を覚え、体調を崩すようになったと言う。彼女は、この気持ちとこれからやってくる危機的状況について、他の親たちと共有する機会を作ろうと考え、赤ちゃんと通っていた図書館のスタッフに相談を持ちかけたところ、「(図書館としては)政治活動には加われない」との理由で断られたそうだ。
彼女はこう言っている。
「抱えている恐怖は、ちゃんと科学的根拠に則っていて、通常の子育て世代の母親が陥るメンタル・肉体的苦痛とは性質が違うし、この症状に効く薬はありません。」
私が特に驚いたのは以下の言葉だ。
「本当に恐ろしかったです。恐怖と怒りのあまり何日もの間眠れませんでした。慌てふためき、旦那に『このこと(気候危機)について知ってたの?』と咎めることもありました。そしてJackを産んだことに罪悪感を抱きました。」
彼女はその罪悪感から、もうJackくんの他に子どもを産まないことに決めた。
「Jackは4ヶ月です。誰よりも可愛いくて、夢見た赤ちゃんです。本当に。」
そして続ける。
「私は彼を見るといつも涙が溢れてしまうんです。この子にはいい人生を歩んでもらいたいから。でも、私はもう、このまま私たちが今のような生活を続けたら、この子は気候危機のせいで死んでしまうかもしれないという事実そのものを受け入れることにしました。本当に恐ろしいですがそうすることでしか前に進めません。」
彼女は気候危機とそれに恐れを感じる事実を受け入れ、その負の感情をエネルギーに、活動家としてExtinction Rebellion の活動に加わることにしたようだ。
「今抱えているこの不安感を、Jackには成長するまで伝染させたくない」
同じ活動家グループで活動している Lily Cameronさんの例も見てみよう。
彼女には8歳の娘がいる。
彼女は、先日のグレタさんのスピーチを聞いて涙が出たという。
「子どもにとって”恐怖”は、自分のコントロールがきかない分、大人が抱える以上に問題になります。だから私は彼女に伝えることを躊躇することもあります。」
「もしエコ不安症のために医者に行ったら、『違うことを考えるように』とかって言われるか、または安定剤を処方してくれるかもしれないわ。でもそれは不適切なの。私たちは恐怖自体を感じるべきなの。」
彼女もHeatherさんと同様の症状を訴えている。
「深夜に目が覚めて、頭から(気候危機のことが)離れなくなるんです。私はずっと環境に気をつけて生活をしてきました。でも、この不安は数ヶ月前にさらに大きくなりました。そして、今私がしていることは(気候危機対策のために)十分ではないと思うに至りました。」
彼女はこうも言う。
「学べば学ぶほど、恐怖を感じるようになります。でも、その恐怖を行動のエネルギーへ変えることが大事なんです。」
Hickmanに言わせると、このエコ不安症はもう何十年も前からあったものであるが、近年の気候変動の表出によって、エコ不安症にかかる人の数が急増している。
特に子どもを守る本能が働く親の症状が重くなりやすいという。
対処法としては、カウンセリングを受けることや心理学的療法を用いることなどが挙げられるが、同時に同じような心境の人同士のつながりを作ることが大事なようだ。
気候危機と心の問題
気候危機と人間の心の間の関係は、私たちが考える以上に密接で、そこにある問題は深刻であると同時に、最後の頼みの綱なのかもしれない。
例えば、気候変動によってもたらされた大雨や台風によって被害に遭われた方々の親族や友人の心のアフターケアの問題。
家やペット、家業など人生を通して大切にしていたものや、心の拠り所としていたものを一瞬で失ってしまったとき、心に相当なダメージを与えるのは当然のことだ。私も想像に耐えない。
な傷を負う。
そんな若者がその後非行や薬物などに手を染めたり、精神的病を患ったりすることは簡単に想像できる。
この点の問題があまり議論に上がっていないように思う。
しかし、理屈ではなく感性(心)こそが、この目に見えにくい厄介な問題を解決の方向に動かすというのも事実だろう。
気候危機と私たちの心の距離。
その距離を近いと感じられる人々こそが、今世界中で行動を起こしている。
地球の問題を自分の子どもの問題として捉えられる、感性が際立って鋭い人たちだ。
上で挙げた二名のみならず、グレタさんも11歳の時にうつ病を経験している。学校でドキュメンタリーを見て、気候変動のことが頭から離れなくなったためだと言っていた。
もし世界中の人間の心が気候危機を無視し続けられるほど鈍っていたら、私たちにこの問題を解決する希望は残されてなかったかもしれない。
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